都市流体をコンピュータで観る

グリーンアジア環境学/都市建築環境工学研究室 池谷直樹 准教授

Naoki Ikegaya

人々の生活する都市空間では,様々な風を感じることができます.時には,そよ風のような心地良い風がある一方で,臭気や汚染物質を運んで来る風やビル風のような強風であることもあります.このような都市内の風をコンピューターによる数値計算で空間的に捉え,建物が周辺気流や物質拡散に与える影響の解明することに取り組んでいます.


1. 建物周りの物質拡散過程

都市の複雑な建物形状を単純な立方体模型により再現した単純粗度群上で,パッシブスカラーと呼ばれる気流に乗って運ばれる物質がどのように拡散するかを調べています.実際の都市における物質拡散現象は複雑な要因が絡み合っていることが想像されますが,まずは現象を単純化して計算機上に再現することで複雑粗度上の拡散現象を理解し,実在都市における排ガスなどの汚染物拡散予測に役立てたいと考えています.

2. 建物生成乱流の影響

個体表面での速度は常にゼロになるという制約から,非常に大きな速度シアーが建物近傍で形成されるため,それに起因する建物の長さスケールを持った気流の乱れが生成されることが知られています.この時空間的な乱流と都市形状の関係を理解することが,歩行者高さにおける突風や弱風などの風環境評価や都市内建物の自然換気量の評価に役立つと考えいます.

3. 粗面乱流境界層としての普遍則

近年では地表面の衛星写真が簡単に手に入るようになりました.都市を鳥瞰的に観察してみると,都市表面はサンドペーパーのような凸凹のついた面であることに気がつくと思います.実は,都市が生成する乱流境界層は,古典的な粗面乱流境界層に非常に似ていると考えられており,都市上空の速度・温度分布や運動量拡散機構,物質拡散機構を粗面乱流境界層と分類して説明することが試みられています.物理的興味から,スケールの小さな実験室で得られた現象と都市のような数kmオーダーでの現象における普遍性の追求を目指しています.