“風洞実験”を通して流れをリアルに捉える

エネルギー流体科学研究室 安養寺正之 准教授

Masayuki Anyoji

新しい惑星探査航空機の開発や,ロケット及びジェットエンジンから発生する音響問題,さらには先進的な流体計測技術の開発など,航空宇宙流体に関わる挑戦的課題に取り組んでいます.当研究グループでは“風洞実験”を通して,目に見えない流体現象をリアルに感じる感性と課題を突破していく想像力を養うことで,将来的に各産業分野を牽引するエンジニア・研究者を輩出することを目指しています.

1. 火星探査航空機の高性能翼開発

日本の次期火星探査ミッションの候補の1つとしてとして,航空機を使った新しい探査手法が検討されています.火星の複雑な地形にも左右されず,広範囲にしかも地表近くでより詳細な科学探査が期待されています.しかし,火星は地球の約100分と1という大気密度が非常に小さい環境であるため,火星での飛行成立には,翼の性能を極限まで高めることが要求されます.このような難しい空力設計課題に対して,火星のように地球とは全く異なる飛行環境でも,地球上でその流れを再現することができる“相似法則”を利用した風洞実験を行っています.翼の性能に直結する流体現象を明らかにし,最適な形状特徴を見出すことで,火星探査飛行を実現する主翼の設計開発を行っています.

2. 超音速ノズルから発生する空力音響

ロケットやジェットエンジンに用いられるラバルノズルから高速ガスが噴射された際,ノズル周辺では特徴的な音響周波数を伴う空力騒音が発生します.このような非常に強い空力騒音はロケ

ット内部に搭載された衛星などの音響振動破壊を引き起こす要因となります.当グループでは,これまで研究例がほとんどない超音速ノズルの始動時に発生する強い音響特性に着目し,空力音響を引き起こす流体要因の解明とその低減策に関する研究を行っています.音響特性に関連が強いと考えられるノズル内の衝撃波現象を捉えるため,ハイスピードカメラなど高速流体計測システムを駆使した実験研究に取り組んでいます.

3. 非接触型の先進流体計測技術の開発

物体周りの流体現象を正確に計測するためには,センサーなどの設置による流体干渉の影響を避け,非接触で,しかも数値データとして如何に正しく計測するかが問われます.当グループでは“光”を使った非接触型の先進流体可視化技術の開発に取り組んでいます.その一例として,紫外線によって発光する蛍光色素を含んだオイルを模型に塗布し,模型表面上の流線および表面摩擦応力分布を光学的に計測する“蛍光油膜法”の開発を行っています.本技術を航空機などの設計開発に活かせるよう,遷音速・超音速領域といった高速領域に適用できる技術に確立していくことを目指し,JAXA宇宙科学研究所と共同で風洞実験による技術開発に取り組んでいます.